感染する。
これはきっと、感染するんだ。
いつもと変わらない、学校の帰り道。
ふと、空を見上げた。
高くそびえ立つマンションと電線の隙間から、申し訳程度に夜空が見えた。
そういえば、今日は空が綺麗だった。
吸い込まれてしまいそうなほどの青さだった。
雲一つない空は、夜になっても変わらない。
もっと近くで、あの空をみたい。
辺りを見回すと、高層マンションが高さを競うかのように密集していた。
幸い制服だし、マンションに入っても大して怪しまれることはないだろう、そう思い、一番近くのマンションに入った。
エレベーターで最上階まであがり、そこからは非常階段で屋上に行けばいい。
To be continue.
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ひゅーという落下音が聞こえる気がした。不審に思って見上げると、落ちてきていたのは、人だった。
受けとめようなんて気はさらさらなかった。僕は、いや、僕だけじゃない、それに気がついた全ての人が、ただ、その落ちてくる人を避けようとした。そして、その人が地面に叩きつけられるのを見つめていた。聞いたことのない音がした。
しばらくはみんな、動けずにいた。僕も例外ではなく、飛び散った赤い液体を、その中心にいる人を、呆然と見つめていた。
キャーという、女性の甲高い悲鳴で我に返った。
「救急車、救急車呼んで誰か!ひ、人が落ちてきたぞ…!!」
僕は、自分が携帯電話を持っていることなんて忘れていた。それどころか、一一九という番号さえ出てこなかった。
誰かが呼んだのだろう、間もなく救急車と警察がきて、あっという間に僕らは引き離されてしまった。
To be continue.
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たまたま、遊びにきていただけだった。
久しぶりに行ってみるか、そんなノリで来ていただけだった。ただ、職業柄からかカメラは手放せなかったのだけれど。
嫁は旅行に行っている、と弟が言うから、わざわざ慣れないもてなしをさせるのも悪いかと思って、早々に帰ろうとしていたのだ。お互いに社会人になってからは滅多に会わなくなっていたから、弟と会うのは久しぶりだった。まさかそのあとに、こんなことがあろうとは。
聞き慣れない音がした。でも、聞き慣れないなりに嫌な感じがした。何事かと、さり気なく音のした方に注意を向ける。人の流れが、完全に停止している箇所があった。何かある、そう思って、早足にその場所へ向かっていた、そのとき、女性の甲高い悲鳴が聞こえた。予感は確信に変わった。駆け足で中心に割り込んでいくと、女子高生(いや、最近は発育が早いから女子中学生かもしれないけれど、とりあえず女の子)が、仰向けに倒れていた。血溜りの真ん中に。
「救急車、救急車呼んで誰か!ひ、人が落ちてきたぞ…!!」
誰かのそんな声が聞こえた。自分で呼べよ、意外にも自分は冷静で、そんなことを思いつつ救急車を呼んだ。
さすがに遺体を撮るわけにはいかない。でも雑誌カメラマンとして、何も撮らないなんてありえない。だから、周りで慌てふためく人たちを写した。
未だ呆然と目を離せないでいる人、足早にその場を去る人、テンパってとにかく大声で何か言っている人、顔は背けながらも立ち去る様子はない人、ただただ泣いている人…いろいろな人を写した。
救急車と警察がくると、さがってくださーい、と間延びした声で警察に呼び掛けられ、手際よくブルーシートが張られて視界は遮られた。何人かが、周囲の人に事情を聞きはじめた。これに捕まったら厄介だ、経験上知っていたから、何食わぬ顔でそこから離れ、自社へと向かった。
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自殺?
そんな、ありえない。彼女はそんな子じゃあなかった。
教員になって7年目、担任を持つようになって5年だ。そんな、まだまだ駆け出しだというのに、誰が予想できたというのか、こんな、事件。
ちょっと不思議な雰囲気を持った子ではあったけど、私のクラスにはいじめなんかなかったし、第一あの子はそういう対象になる感じの子じゃなかった。
なら、どうして。
家庭の事情?いや、特に問題は聞いてない。わからない、わからない…どうして自殺なんかしたんだ、彼女は。
「彼女は君のクラスだったね?」
校長の声がやけに遠い。
生徒への伝え方だとか、世間への公表の是非だとか、なんかいろいろ話しているけれど、ちっとも耳に入らない。
ただ、心中に浮かび上がる言葉。
彼女はそんな子じゃなかった……。
彼女は………。
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今日、突然の全校放送があった。
この学校はマンモス校だから、全校生徒が一同に集まる機会も場所もない。だから、全校放送はテレビで見る。生徒は教室から出ずに待機、教師は至急2年職員室に集まるように放送があって、教員たちは慌ただしく職員室へと集まっていった。私たちはその様子を、珍しいことだ、と見つめる。何一つ情報を与えられていないから、生徒達はさまざまな憶測をしていたが、一番有力だったのは、なんらかの事情(大きい台風がくるだとか)により下校というものだった。むしろそれは、希望だったのだろうが。
しばらくして、担任が入ってきた。やけに深刻な顔をしている、と思った。雰囲気も沈んでいて、さっきまでのクラスの雰囲気は一変した。みんなが、気付いた。何か、良くないことがあったんだ、と。
異変を感じ取った生徒たちの騒めきに、静かに、そう言って担任はテレビをつけた。テレビには校長が映っていた。しばらくして、重たそうに校長の口が開いた。
「たいへん、残念なお知らせがあります」
しん、と学校中が静まり返った。廊下で針一本でも落としたら、音が響いてしまいそうだった。
妙な間のあと、校長が続けた。
「わが校の二年八組の生徒である野沢あゆみさんが、昨夜十時頃、亡くなられました。高層マンションから飛び降りたそうです。非常に残念なことですが……‥‥」
私の耳には、もう校長先生の声は入っていなかった。
死んだ……
ただ、その衝撃だけだった。
「黙祷」
その言葉だけが漸く耳に届き、慌てて頬杖をついていた手をおろして目を瞑った。
頭の中が、混乱していた。ただ、顔も知らない『野沢あゆみ』さんのことだけを連綿と考えていた。
To be continue.
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