2008

01.21

« 「運命のヒト」 »

いつか、あたしもあんな風になれるのだろうか。




 あたしのお母さんとお父さんは、すっごく仲が良くて、らぶらぶで。だからあたしは、小さい頃から漠然と思ってたんだ。
 あたしも結婚したら、きっとああなるんだ って。

だけど。

「…お姉ちゃん、ちゃんと恋してる?肌荒れしちゃってるよ」
「!!う…うっさいな、あんたに関係ないでしょ」

 リビングで寛いでる時にそんな不粋な問い掛けをされ、つい言葉が詰まる。すると妹は、まさか、と顔を歪めた。

「…今でもまだ、初恋もしたことない、とか言わないよね?」
「……」

 そう、漠然と『ラブラブな結婚生活』を思い描いていただけのあたしは、まだ、恋を知らない。
 その沈黙は、嫌でもある程度の肯定を表してしまう。

「信じらんない…高二にもなって!」

 そんなこと言われても、あたしだって困る。だって、まだ、運命のヒトに出会えてないんだから。
 お母さんにとってお父さんがそうであるように、あたしにとっての運命のヒト。
 運命のヒトなんだから、きっと、会った瞬間に分かるに違いないんだ。
 …なんだかわからないけど、きっとこう…ビビビッと、何か来るに違いないんだ。
 妹が、呆れたようにため息混じりに言った。

「そんな悠長なコト言って…。あたしのが先にらぶらぶな旦那見つけちゃったらごめんねぇ、お姉ちゃん」

 妹は、心にもないであろう謝罪の言葉を述べると、あたしデートだから、と部屋を出ていってしまった。
 彼女は彼氏と、半年と保った例しがない。そのくせ、毎回スゴく幸せそうに恋をする。

…恋って、どんなもんなのさ?

 正直、コクられたことは何度かあるし、彼氏がいたこともある。でも、相手の言う好き の意味が、わからなかった。

「オハヨー、一日ぶり!」
「おはよ」
「…どしたのー??今日はなんか、お返事がつれないねえ?」
「…ちょっと、ねー」

 まさか、男友達に恋の悩みを相談するわけにもいかない。
 すると、ふぅーん、と、納得したんだかしてないんだか、よく分からない相槌を打って、口を尖らせた。
 たぶん、納得してない。

「まさか、恋のお悩みじゃないよね?」
「え!?ま、まさかあ!」

 ふぅーん、と、また同じような相槌を打つと、少し小声で話しだした。

「……ね、オレさ、今、スゲェ好きなコいんだよね」

 どうやら恋のお悩みを抱えていたのは、彼の方だったらしい。

「へぇ…それで?」
「うん、でね、コクろうかどうか迷ってんだけど…どうすればいいと思う?」
「んな大雑把に言われてもわかんないよ。そのコとどんな感じなん?」
「うーん、割りといい感じだと思うんだけど…今ちょっと微妙。なんか彼女、オレと喋っててもドコかうわの空でさー」
「あー、そりゃツライね、」
「その上、オレとか射程圏外みたいで??」
「マジで?アンタみたいないいヤツに気付かないのかあー」
「うん。なんか、いいヤツのまま終わりそう。でさ、彼女に男としてみてもらいたいわけじゃん?オレとしては」
「うん」
「だからあ、玉砕覚悟でコクって意識してもらうか…いっそのこと諦めてしまおうか、と、ねー。ね、オレってば結構切実に悩んじゃってね?」
「そだねぇ…や、でもアレじゃない?諦めるよりは玉砕覚悟でコクった方がいいんじゃない?ちゃんと意識してもらえれば、あとはなんとかアタックできるだろうしさ」
「そうかぁー…。な、オレって男として意識されないタイプなん?」
「えっ…そんなことは、ないと思うけど……」
「そっかあー…じゃあコクってみようかな、今から!」
「あはは、マジで?今から??いってらっしゃーい」

 応援するし、と笑って、ひらひら、と手を振ると、彼はむすっとした顔になって言った。

「……あのさ、まだ気付かない?オレの好きなコって、オマエなんだけど」
「……え?ちょ、今なんて…」
「オレ、オマエの鈍感なトコとか、友達思いなトコとか、馬鹿っぽいのに意外にも真面目なトコとか、ちょっと夢見がちなトコとか…なんかもうそうゆうの全部含めて、めちゃくちゃ好きなんだけど」
「……」

 きっと、今のあたしの顔はスゴく間抜けだ。ぽかん、と、口を開けたまま、まじまじと彼の顔を見てしまっていた。彼は真っ赤な顔のくせ、決してあたしから逸らそうとはしない。

「……前さ、運命がどうとかって、言ってたじゃん…?」
「あ……」
「オマエはさ、感じなかったみたいだけど…オレは、オマエに会った瞬間、運命だと思ったね」
「ッ…」

 ドクン、と、いきなり全身に血液が行き渡った気がした。彼に負けないぐらい、顔が紅潮していくのがわかる。
 ヤバい、彼の顔なんて見ていられない。

「…ありさ?」

 彼が伸ばした手を、思わず避けてしまった。

「む、無理…」
「なにが…」
「裕太ん顔、見れない…恥ずかしくて」
「…え、」

 頭がテンパってしまって、何を言いたいのか何を言ってるのか、わからなくなってしまった。言葉の意味を理解する前に、口から言葉が溢れだす。

「わかんな…なに、コレ…ちょ、心臓ヤバいって、ぇ、なんで…」
「…運命?」

 もう、これ以上ないというくらい、何かが熱くなっていった。
 ……そうかも、これ…

「う、運命だったのかも…今気付いたけど」


END.

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    2008

03.03

« 「極彩色同盟」 »


 何もない、毎日だった。退屈な毎日だった。
 モノクロームな世界を、どこか冷めた思いで過ごしていた。

 そんな日常に、突如現れた 極彩色の、あの人。



 あたしは、昔から 人に色が着いて見えた。

 母は桃色で、父は薄い濃緑、弟は水色。
 友だちのありさは山吹色で、その彼氏の上島くんは黄色。
 学級委員長は赤茶色だったし、担任は薄紫色をしていた。

 ただ、自分自身の色はわからなかった。
 鏡にも、写真にも、なぜか自分の色は映らない。
 つまり…そう、多分、あたしには色なんか着いてないんだ。

 あたし以外の世界中の人が、ちゃんと一色ずつ持っているんだとしても。

 でも、それを他人に言えたことはない。
 幼稚園の頃、「お母さん」を桃色に、「お父さん」を緑色で塗ったとき、
 苦笑いを浮かべた保育士さんに、「この色に見えるの?」って聞かれて以来、
 あたしは他人にこのことを言えたことがない。
 それからあたしは、周りのみんなが塗る色を真似て人物を塗るようになった。
 あたしには、人間の肌の色よりも、その人が持つ「色」の方が強く見えてしまうのだ。

 成長するにしたがって、自分に近しい人だけでなく 色々な人に関心を持つようになると、
 その「色」は目障りで仕方がなくなっていった。
 外を出歩く度に目に入るさまざまな色たち。目がちかちかして、落ち着かなかった。
 そのうち、あたしは自然と世界を「モノクロ」で見る術を身につけた。
 それからは、基本的には色の濃淡しか分からないから、楽になっていった。
 ただ、家族だとか友達だとか、関わりが深くなって その人となりを知ってしまうと、
 その人たちだけは色が着いて見えた。


 最初に彼を見たとき、あたしはビックリした。
 初対面でモノクロじゃない人なんて、すごく久しぶりだった事もある。
 だけど、何より、彼が持つ「色」だ。
 極彩色だった。
 赤と黄と緑と、とにかく明るい色が混ざって、まぶしかった。

あたしとは、正反対じゃん…。

 友だちの紹介で知り合ったのだけれど、
 彼を見ていると居た堪れなくなって つい、あたしは挨拶もそこそこに席を立ってしまった。
 もう、会うこともないだろう と、思って。


 だけど、次の日。
 帰ろうとすると、校門のところに彼が立っていた。
 昨日とは打って変わって、ダークな色合いをしている。
 多分、そのせいで あたしは、彼が校門にいることに気づけなかった。
 あたしの顔を見ると、またパッと明るい極彩色に変化した。

「こんにちわ、待ってたんだ、亜紀ちゃんのこと!一緒に帰ろ!」

 そういうと、あたしの返事も聞かずにさっさと駅へと歩き始めた。
 無視したい気持ちはあったが、同じ学校の人たちがこんなにいるところで無視するのは
 なんか体裁が悪い気がして、つい彼の後に従ってしまった。

「ね、オレのこと覚えてる?」
「…昨日の人 でしょ」

 そこまで記憶力は悪くない。

「そうじゃなくてー…オレ、亜紀ちゃんと同じ幼稚園だったんだけど」
「え…」
「まっ小学校上がる前に引っ越しちゃったから、覚えてなくてもしょうがなけどさあ!!」

 彼の色に、一瞬影がついたような気がした。

「ご、ごめん…」
「ま、別にいいけど…ね、亜紀ちゃんさ、幼稚園の時に 親の絵描いたのって、覚えてる?」
「ああ、うん」

 忘れるわけがない。一種の、トラウマだ。

「あんときさあ、オレも似たような絵、描いててー、なんかずっと気になってたんだよね」

 何の話だ、一体。
 彼の色が不安定に変化しだす。
 黄色、青、水色、紫、薄桃色、…

無色。

「もしかしてさ、亜紀ちゃん…色着いて見えるんじゃないのかな って」
「!!」

 少し前を歩いてた彼が、いきなり後ろを振り向くと言った。
 思わず足を止め、正面から彼の顔をまじまじと見つめる。

気のせいか…。

 相変わらずの、極彩色の色の変化。

「……そんなに見つめないでよv照れるじゃんvv」
「…バカ。てゆうか、何の話?色って、なに」

 茶化されたおかげで、つい素直になれない。

まさか、あたし以外にも色が着いて見える人がいるとか…ありえない よね…?

 自問自答をしながら、自分の返答が間違ってないということに 確信を得ようとした。

「んーわかんないならいいや」

 くるりと背を向けて、またあたしの前を歩き出した。
 その彼の返答に動揺しつつも、慌てて半歩後ろを着いていく。

ちょっと待て。
わかんないなら って、
なに、もしかして、わかるの 君は…

 勇気を出して、問いかける。

「わ、わかるの…?」
「ん?色の話?もう忘れて!勘違いだったみたいだし」

 そんなことを言われて、更に焦る。

もし、同じなら…同じなら、初めて、

 彼の袖をぐい、と引っ張って、向き合わせる。

「か、勘違いじゃない」
「…」
「色…見える、よ…あたし…。えっと、君も…見える…?」

 無言になってしまった彼に、不安を覚える。

「君 って…名前、覚えてないの?昨日も言ったのにー」
「ご、ごめん…」

 昨日は、色に気をとられて名前どころじゃなかった。
 そして今は、それよりも色のほうを答えて欲しかった。

「で、見える…の?」

 じっと、試すようにあたしを見てくる。
 その視線を受け止めて、彼の顔を見つめ返す。
 彼はくすっと笑うと、軽く言った。

「見えるよ」

 その返答に、心拍数があがる。
 恐る恐る、ずっと気になっていたことを、口に出してみた。

「あたし…色着いてる?」
「え、着いてるよ?極彩色」
「うそ!?」
「てゆかオレは?オレもずっと気になってたんだよね」
「え…極彩色、だよ、」
「…ああ、そうゆうことか」

 ふふ、とおかしそうに彼は笑った。

「な、なに…?」
「さあ、亜紀ちゃんにはわかんなくていいよ。
 それよりさ、オレの名前、覚えてくれない?」
「あ、うん」
「工藤智之(さとし)。よろしく、相田亜紀ちゃん」
「…よろしく」

 差し出された手をゆっくり握り返すと、自然と笑顔になってしまった。

「亜紀ちゃん、いい笑顔v」
「あは、うん、初めての仲間だし、工藤くん」

 それに、あたしにも色が着いてると知った。
 それも極彩色。

「智之って呼んで」

 彼の色が、暖色を行き来する。
 きっとあたしの色も、きっと今は暖色だ。

「智之、ありがと」

 気づいたら、周りは無色になっていた。


 彼だけが、極彩色。


END.

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    2008

06.23

« 「僕の彼女」 »

君がそう言うのなら。

君がそう言うのなら、僕は それに従おう。



「こっち来ないで」

冷たい声でそう言い放つのは、僕の彼女・瑞葉(みずは)。
その言葉に従って、僕はそっと彼女のいるリビングから出る。
それに従わずにいて、僕の大事な商売道具が捨てられちゃ適わない。

僕は、インターネットのアフィリエイトで稼いでいる。
だから商売道具とは、要はパソコンのことだ。
僕が定職に就かずにいることに彼女の異論はなかった。もちろん今だって、そのことに関してうだうだ言われることはない。

なんだってリビングにパソコンを置いてしまったのか…しかもデスクトップ型のを。
持ち運べないどころか、仕事自体がし辛くってしょうがない。
まあ、1LDKだったからリビングに置くしかなかったのだけれど。

彼女の我が儘は、今に始まったことではない。
思えば、付き合い始めた頃からその気はあったのだ。
ただ、同棲し始めてそれが顕著になったというだけで。

最初のうちは「かわいいわがまま」でしかなかったが、それが次第にエスカレートしていった。
そして最終的には…「女王様」と化したのだ。

「健太!アイス食べたいんだけど」
「……わかった」

このセリフだって、何度言われたことか。
どんなアイスがいいかなんて、聞くまでもない。もうとっくのとうに、覚えてしまった。
コンビニにつくと、迷わず100円アイスを通り過ぎ、某有名なアイスメーカーのアフォガードを手に取る。それから、彼女の気が変わった時のために同ブランドのドルチェシリーズをいくつかと、クリスピーサンドをカゴに入れてレジに向かった。

どうして僕が彼女のためにここまでするのか。

よく聞かれるが、特に理由は思いつかない。
「愛してるから」なんてゆう、ありきたりなセリフも出てこない。そんなの、歯が浮くどころの話じゃない。
ただ、彼女がそこにいるのが普通になってしまっただけ。
いないことが、非日常になってしまっただけ。

ゆっくりと帰路を辿って、家に着く。
往復約30分。
鍵をドアに差し込み、手首をひねる。
カチャリと、小気味のいい音がして、ドアが開く。

「ただいま、買ってきたよ、瑞葉」

声をかけて出てきたのは、満面の笑みの彼女。
いきなり態度が豹変するのはいつものこと。
その30分の間に何があったか なんて、僕の知ったことじゃない。

「アリガト、健太」

普段はめったに言うことのないお礼の言葉に、ふと頬が緩む。
彼女の細い腕が、僕の腕に纏わりつく。
ただ、アイスを買ってきただけだというのに…珍しい。
でも。

僕は、これがあるからやめられないんだ…


END.
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