何もない、毎日だった。退屈な毎日だった。
モノクロームな世界を、どこか冷めた思いで過ごしていた。
そんな日常に、突如現れた 極彩色の、あの人。
あたしは、昔から 人に色が着いて見えた。
母は桃色で、父は薄い濃緑、弟は水色。
友だちのありさは山吹色で、その彼氏の上島くんは黄色。
学級委員長は赤茶色だったし、担任は薄紫色をしていた。
ただ、自分自身の色はわからなかった。
鏡にも、写真にも、なぜか自分の色は映らない。
つまり…そう、多分、あたしには色なんか着いてないんだ。
あたし以外の世界中の人が、ちゃんと一色ずつ持っているんだとしても。
でも、それを他人に言えたことはない。
幼稚園の頃、「お母さん」を桃色に、「お父さん」を緑色で塗ったとき、
苦笑いを浮かべた保育士さんに、「この色に見えるの?」って聞かれて以来、
あたしは他人にこのことを言えたことがない。
それからあたしは、周りのみんなが塗る色を真似て人物を塗るようになった。
あたしには、人間の肌の色よりも、その人が持つ「色」の方が強く見えてしまうのだ。
成長するにしたがって、自分に近しい人だけでなく 色々な人に関心を持つようになると、
その「色」は目障りで仕方がなくなっていった。
外を出歩く度に目に入るさまざまな色たち。目がちかちかして、落ち着かなかった。
そのうち、あたしは自然と世界を「モノクロ」で見る術を身につけた。
それからは、基本的には色の濃淡しか分からないから、楽になっていった。
ただ、家族だとか友達だとか、関わりが深くなって その人となりを知ってしまうと、
その人たちだけは色が着いて見えた。
最初に彼を見たとき、あたしはビックリした。
初対面でモノクロじゃない人なんて、すごく久しぶりだった事もある。
だけど、何より、彼が持つ「色」だ。
極彩色だった。
赤と黄と緑と、とにかく明るい色が混ざって、まぶしかった。
あたしとは、正反対じゃん…。
友だちの紹介で知り合ったのだけれど、
彼を見ていると居た堪れなくなって つい、あたしは挨拶もそこそこに席を立ってしまった。
もう、会うこともないだろう と、思って。
だけど、次の日。
帰ろうとすると、校門のところに彼が立っていた。
昨日とは打って変わって、ダークな色合いをしている。
多分、そのせいで あたしは、彼が校門にいることに気づけなかった。
あたしの顔を見ると、またパッと明るい極彩色に変化した。
「こんにちわ、待ってたんだ、亜紀ちゃんのこと!一緒に帰ろ!」
そういうと、あたしの返事も聞かずにさっさと駅へと歩き始めた。
無視したい気持ちはあったが、同じ学校の人たちがこんなにいるところで無視するのは
なんか体裁が悪い気がして、つい彼の後に従ってしまった。
「ね、オレのこと覚えてる?」
「…昨日の人 でしょ」
そこまで記憶力は悪くない。
「そうじゃなくてー…オレ、亜紀ちゃんと同じ幼稚園だったんだけど」
「え…」
「まっ小学校上がる前に引っ越しちゃったから、覚えてなくてもしょうがなけどさあ!!」
彼の色に、一瞬影がついたような気がした。
「ご、ごめん…」
「ま、別にいいけど…ね、亜紀ちゃんさ、幼稚園の時に 親の絵描いたのって、覚えてる?」
「ああ、うん」
忘れるわけがない。一種の、トラウマだ。
「あんときさあ、オレも似たような絵、描いててー、なんかずっと気になってたんだよね」
何の話だ、一体。
彼の色が不安定に変化しだす。
黄色、青、水色、紫、薄桃色、…
無色。
「もしかしてさ、亜紀ちゃん…色着いて見えるんじゃないのかな って」
「!!」
少し前を歩いてた彼が、いきなり後ろを振り向くと言った。
思わず足を止め、正面から彼の顔をまじまじと見つめる。
気のせいか…。
相変わらずの、極彩色の色の変化。
「……そんなに見つめないでよv照れるじゃんvv」
「…バカ。てゆうか、何の話?色って、なに」
茶化されたおかげで、つい素直になれない。
まさか、あたし以外にも色が着いて見える人がいるとか…ありえない よね…?
自問自答をしながら、自分の返答が間違ってないということに 確信を得ようとした。
「んーわかんないならいいや」
くるりと背を向けて、またあたしの前を歩き出した。
その彼の返答に動揺しつつも、慌てて半歩後ろを着いていく。
ちょっと待て。
わかんないなら って、
なに、もしかして、わかるの 君は…
勇気を出して、問いかける。
「わ、わかるの…?」
「ん?色の話?もう忘れて!勘違いだったみたいだし」
そんなことを言われて、更に焦る。
もし、同じなら…同じなら、初めて、
彼の袖をぐい、と引っ張って、向き合わせる。
「か、勘違いじゃない」
「…」
「色…見える、よ…あたし…。えっと、君も…見える…?」
無言になってしまった彼に、不安を覚える。
「君 って…名前、覚えてないの?昨日も言ったのにー」
「ご、ごめん…」
昨日は、色に気をとられて名前どころじゃなかった。
そして今は、それよりも色のほうを答えて欲しかった。
「で、見える…の?」
じっと、試すようにあたしを見てくる。
その視線を受け止めて、彼の顔を見つめ返す。
彼はくすっと笑うと、軽く言った。
「見えるよ」
その返答に、心拍数があがる。
恐る恐る、ずっと気になっていたことを、口に出してみた。
「あたし…色着いてる?」
「え、着いてるよ?極彩色」
「うそ!?」
「てゆかオレは?オレもずっと気になってたんだよね」
「え…極彩色、だよ、」
「…ああ、そうゆうことか」
ふふ、とおかしそうに彼は笑った。
「な、なに…?」
「さあ、亜紀ちゃんにはわかんなくていいよ。
それよりさ、オレの名前、覚えてくれない?」
「あ、うん」
「工藤智之(さとし)。よろしく、相田亜紀ちゃん」
「…よろしく」
差し出された手をゆっくり握り返すと、自然と笑顔になってしまった。
「亜紀ちゃん、いい笑顔v」
「あは、うん、初めての仲間だし、工藤くん」
それに、あたしにも色が着いてると知った。
それも極彩色。
「智之って呼んで」
彼の色が、暖色を行き来する。
きっとあたしの色も、きっと今は暖色だ。
「智之、ありがと」
気づいたら、周りは無色になっていた。
彼だけが、極彩色。
END.
▼ランキング▼
